【マンガ物語】新ピック〔ピックとチャッピ―〕

小説
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僕の名前は、ピックです。

よくピッグと間違われます。自分でいうのもなんですが、とてもかわいい子豚です(みんなが、いつもそう言ってくれます)。この小学校のたった一人の豚だからと思います。

みんなの人気者です。赤ちゃんの頃、隣村から校長先生に連れられて、やってきました。

寝ては食べ、食べては寝て、ごろごろしていても一度も怒られたことはありません。

僕は、子供たちの愛されて、みんなに愛されて、本当にしあわせ者です。

僕は、いつも、2メートル四方の四角い囲い(鉄格子)の中に、いつもひとりでいます。子供たちは時々、監獄(かんごく)といっております。きっと、いい言葉ではないのでしょう。なぜならその後決まって、顔を見合わせてクスクスと笑っているからです。

でも、みんなに愛されて本当のしあわせ者です。この世界が僕の世界です。すばらしい世界です。それ以外の世界のことは、僕は知りません。

僕は、みんなにほめてもらえるように、何でもかんでもどんどん食べました。おかげで、どんどん大きくなりました。ある日、異臭を放つ腐ったリンゴを食べて、生まれて初めて下痢をしました。わざわざ、となり村から、お医者さんを呼んできて診察していただきました。

その時、僕はみんなに大切にされ本当に愛されているのだと思いました。

そうだ、ここで一番大切なことを言い忘れていました。

これは、校長先生から、絶対に、絶対に、口止めされていること。

実は、僕が生まれてから6か月たった頃、校長先生にはいつもたいへんお世話になってなっているので、「ありがとう」と言いました。自然に口から出てきた言葉です。気が付いたらそう言っていました。校長、キムラさん、ミタさんの3人が、本当にビックリして、ぼくを、取り囲みました。

僕は、「しゃべる豚」だそうです。しかも「知恵」というものがあるらしい。

このことは、今、ここにいる4人だけの「ヒミツ」だよ、そうでないと大変厄介なことになるからね。

今まで通り「ブーブー」だよと、念を押されました。

僕は、「ブー」(分かりました)と言いました。

どうも、みんなは、僕が大きくなることが、たいへん楽しみのようです。

なぜか、生きがいのように見えます。不思議です。とれも不思議です。

朝から晩まで、みんなに喜んでもらうために一生懸命に食べました。

人間さまは、お仕事をしないと生きていけないそうですが、キムラ先生が言うには「君の仕事は、食べることだよ、1日も早く大きくなることだよ」と言われました。

そんな中で、僕の一番の楽しみは、まいにち毎日、午後、広い農場でたくさんの子供たちと、ふざけ合いながら、笑いながら、ブーブーブーと追いかっこをすることです。

本当に楽しい時間です。

10月の中旬、かなり寒い日でした。超、汗っかきの太りすぎの僕には、ちょうどいい寒さでした。いつにもまして、子供たちと鬼ごっこをして、農園内をめいっぱい走り回りました。楽しかったけど、かなり疲れました。終わった頃、突然、主任のキムラさんがやって来てました。僕の体を三か所ほどさすっては押して、

「走り過ぎもよくないよ、お肉がだいぶ固くなっているね」と言われました。

心配してくれて・・・でも、その時、その本当の意味を、僕は分かりませんでした。

木枯らしが吹き、枯れ葉が舞い散る11月になりました。

おかげさまで、最近、自分でもビックリするくらいに、大きくなりました。

第一週の月曜日は、校長先生、主任のキムラさん、ミタさんお3人全員がそろう、「健康診断」と「体重測定」の日です。僕は、ミタさんに連れられて、1階のアルコールがツーンと鼻を刺すような臭いがする「理化学教室」に入りました。

3人が、ぼくを真剣に見つめています。

キムラさんは、僕の大きくなった体を、信じられないほど、なめるような鋭い目つきで見ていました。

いつものキムラさんじゃない!おかしいと思いました。なにか身に迫る恐ろしい緊張感を感じました。

きっと、何かがある!

キムラさんは、校長先生に促されるように、体中をあっちこっち、なで回した後、突然、何か所も思いっ切り叩きました。僕は「痛い」「痛い」と叫びました。

体重測定ケージに押し込められました。

「入りたくない、入りたくない、ひどい!ひどい!」と叫びました。

「お~、110キロだよ、110キロだよ!」とキムラさんは、喜びながら大声で叫びました。

そして、その後の、小さなひとり言を、僕は聞き逃しませんでした。

「うまそうだね~」

僕は、体全体が、激しく、痛いほど震えました。崩れ落ちそうになりました。

さらに、校長先生が、続けました。

「謝肉祭には、間に合うかな?」

「間に合いますとも」キムラさんが、続けました。

3日後の午後、

大雨のため、今日の運動会は中止です。子供たちは、全員、一番広い学習A教室に集まりました。僕は、なぜか、初めて「首輪」を掛けられて引っ張られて、教室に入りました。

キムラさんは、子供たちにの前で、言いました。

「いいご報告があります。ピックくんの体重が、100キロを越えました、110キロです!」

子供たちから、大きな歓声が上がりました。みんなが立ち上がりました。

みんな拍手をしました。

「本当に、大きくなったね」

「よかったね」

「すごいね」

「もう、そろそろだね」

「でも、お別れは、さびしいね」

無邪気な笑い声が、あちらこちらから聞こえてきました。

僕は、その場で、卒倒しました。

その日は、一睡も寝むれなかった。

ぼくは、全身の力が抜けた。

僕は、ベットに横たわっている麦わら帽子のわらぶきをたくさん集めて、体をおおった。

それでも、激しい悪寒に身震いした。

悲しくて、涙が止まらなくなった。

「どういうこと」

「これは、夢だよね」

「そんなこと、ありえないよね」

「何かの間違いだよね」

だって、

「ぼくは、みんなに愛されている」

「ぼくは、校長先生にも、キムラさんにも、ミタさんにも、こどもたちにも、いっぱい愛されている」

「これは、ウソだよね。夢だよね」

なみだが、あふれるように流れてきました。

朝明けのひんやりとした空気が漂ってきて、いつものように「鉄格子」の間からは、たくさんの陽光が眩しいばかりに差し込んできました。

その時、目の前にかわいい丸い目で、僕を見つめるチャッピーがいた。

えっ、うそ~、チャーッピーは、死んだはずだよ・・・・・

チャッピーは、野ネズミです。僕がここへ来る前からの先住者です。

僕のすみかの、ここへ来る目的は、僕の残した「食べもの」です。毎日必ずやってきます。ミタさんは、野ネズミを見つけると怒ったように追い回しますが、チャッピーは一度も捕まったことはありません。ミタさんにとっては厄介者ですが、僕にとっては、憎めない、かわいいネズミです。いつの間にか、僕たちは心から通じ合える仲のいいお友達になりました。一番、うれしいのは、夜寝る頃になると、いつの間にか現れて、隣で一緒になって寝てくれることです。それは僕にとって大きな安心、やすらぎでした。

しかし、ある日突然、大悲劇が起こった。

朝起きると、チャッピーが冷たくなっていました。

いくらゆすっても、何度ゆすっても、目を覚ましてくれませんでした。

しばらくしてミタさんがやってきました。「死んでいるね、永遠に目を覚まさないよ、死んでいるから」と言いました。僕は、死という意味が良く分かりませんでした。でも、きっとチャッピーには、もう会えないと思いました。

えっ、目の前に、死んだチャッピーがいた!

「ピックくん、元気かい!・・・元気じゃないよね。君の気持は、痛いほどよく分かるよ。でも、これは現実だよ、夢じゃないよ」と話しかけてきた。

どういうこと、幽霊なの??

「幽霊じゃないよ、現実だよ。これから、君に起こることを、ぼくは伝えに来たんだよ。僕たちは友達だよね。こころから分かり合える親友だよね。だから、はっきり言うね。君が一番心配していることは、ほんとうに残念ながら、その通りだよ。しかも、その出来事は、もうすぐ来るよ。もう、避けようもない、どうしよもない現実だよ。でも、もっと重大なことを君に伝えに来たんだよ。死んだはずのぼくが、今こうして生きているということだよ。ぼくに約束してくれるかな。もう、これ以上悲しまないでね。涙を流さないでね。信じられないかもしれないけれど、これから、君の身にどんなことが起きようと、『君は死なないよ』。僕は、ただそれを伝えに来ただけだよ」

そういうと、チャッピーは消えていった。

僕には、彼の言う言葉の本当の意味がよく分からなかった。

校長先生、キムラさん、ミタさんがやってきた。

校長先生は、頭を深々と下げました。

ぼくは、大きく深呼吸しました。

これからぼくに起こることは、分かっています。

・・・・・

そして、ぼくは、自分でも信じられない言葉を発していました。

「謝肉祭を台無しにするわけにはいきません」

3人が、泣いているのが分かりました。

3人が、また深々と頭をさげました。

ぼくは、思い切って校長先生に聞くことにしました。

「死ぬときは痛くありませんか」

「痛くはないさ。 大丈夫だ。 心配ないさ。 あっという間だ、ほんの一瞬さ」

「死んだらどうなるんですか? ぼくは、どんなに考えても分かりませんでした」

「それは、ぼくもよく分からない。でも、おそらく、静かな、静かな、何もない、苦しみも、悲しみも、まったくないところへ行くんじゃないかな。心配しても仕方ないさ。いつかは、みんな、みんな死ぬのだから・・・

ぼくだって、キムラくんだって、ミタくんだって、いつかは死んでいく。心配することはないさ。もうこれ以上考えないことが一番だな」

人生とは何なのか。死とは何なのか。

ぼくは、校長先生の言ったことを信じようと思いました。

〔ピックの祈りのうた〕

星になって

こんなに愛されていたのに

僕が、生まれてきた訳は

何なの

こんなに愛されていたのに

僕が、生まれてきた訳は

何なの

止まらない涙 止まらない涙

認めたくない 信じたくない

これが これが 僕のさだめなのですか

でもきっと、 でもきっと

真実はあるはず

僕はみんなの為に 

僕はみんなの為に

そうでなくては 生きてきた意味が・・・

きっと 続きがある

きっと 続きがある

真実が分かる時が

僕は それを知りたい

星になって

星になって

11月13日

僕は、たったひとり、軽トラックに乗せられて、

ある所へ、向かっています

どこへ、行くんだって?

ぼくは、知っています

僕の運命を知っています

もう、これ以上しゃべりたくはありません


11月15日

いよいよ、カーニバル〔謝肉祭〕のはじまりです

町中の人も、子供たちも、みんなが待ち望んでいた、2年に一度のお祭りだ

打ち上げ花火がドーンと上がりました

楽団の行進が始まりました

もう、御馳走ががいっぱいです

なんといっても、一番のごちそうは、お肉です

テーブルは、どこもお肉がいっぱいです

子供たちは、みんな大喜びです

僕は、天に召されました

僕の人生は、一年と6か月です

でも、精一杯、一生懸命にいきたつもりです


なぜか、僕は悲しくはなかった

校長先生は、間違っていたなあ

僕は、こうして生きている

なぜか、とても気持ちがいい

急に、ガクンと浮き上がった

天へ天へと上がっていった

地上の世界のことが隅々まで、はっきりと見える

見えないはずのものが、見えてきた

すべて、すべて見えてきた

体は突然なくなった

自分自身が激しく光っているのが見えた

その夜

山のふもとの高原では

校長先生と、孫の健太くんの姿が見えた

満天の空には たくさんのお星さまが輝いています

そして

健太は夜空を見上げて言った

「あれ、超新星かな」


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